亜麻布に染みた血痕

 

「そこで、ヨセフは亜麻布を買い、イエスを取り降ろしてその亜麻布に包み、岩を掘って造った墓に納めた。」(マルコ1546

 

 トリノの聖ヨハネ大聖堂に厳重保存されている聖骸布と呼ばれるイエスさまの埋葬に使われたと伝承される亜麻布(リンネル)をご存知でしょうか。

 

ユダヤ人の習慣では埋葬の際この一枚の縦長の大きなシーツのような亜麻布を(長さ四・三六メートル、幅一・一メートル)半分に折って死者の頭上を折り目に、前後にかぶせる形で包んでから、頭部を別の布切れで巻いて墓に納めたため、埋葬布にははっきりと死者の全身の正面と背後の血痕が染みついて残されていたと言われています。

 

特にカトリック教会では長年、聖骸布はイエスさまの埋葬布と信じられ、崇敬の対象でした。聖骸布を肉眼で観察すると(図8参照)となりますが、これをネガ画像にすると(図9参照)となり、浮き出た人物の姿がもっと明確になります。

 

一九八八年、大英博物館はこの布の年代鑑定をした結果、実はこれが中世のものであり、すなわち偽物と断定、その調査結果を広く発表・報道しました。しかし、近年医学博土のレオンシオ・ガルツバルデスによる最新技術の放射線炭素測定法により再測定した結果、古代遺品の表面には細菌類が透明な天然プラスチックを合成してしまうため、これが年代測定に誤診を招いていることを指摘、この不純物を完全洗浄した上で始めて正確な年代が算出されることを立証、以前中世と鑑定した研究所を含めた三つの研究所で再鑑定を行ない、その年代が三ヵ所とも中世ではなく紀元前のものであったことを特定、今は亜麻布が伝承どおり本物のイエスさま埋葬布であった可能性を高めています……。

 

この最新技術の放射線炭素測定法で地球の年齢を測定すると、地球は誕生以降、約六十億年ではなく約六千年という鑑定結果が出ている極めて聖書的に信頼性の高い測定法です。

 

 博士によると聖骸布に今も微量に残る血痕をDNA鑑定した結果、亜麻布に包まれた人物は男性決定因子であるXY染色体を含む男性であり、ユダヤ人に最も多い血液型のAB型と断定。聖骸布の背中部分には当時十字架の木に最も多く使われていた樫の木くずが微量に付いていたと言います。さらに複数の博士による科学的かつ医学的な鑑定結果をまとめると、この男性の顔には多くの打撲傷が認められ、短いひげにも血のかたまりが多くこびり付いており、むち打たれた痕跡と認められる幅三センチの皮膚の傷跡が、全身約百二十ヵ所にもおよび、ひどく血に覆われていたことが判明、額とこめかみの高さの所に、頭部をぐるりと囲む冠かフード状のギザギザした鋭いものによる傷跡を四五ヵ所以上持ち、両ひざ付近にはすり傷が認められました。このすり傷は亜麻布の男性がまちまちの大きさを持つ岩に覆われたでこぼこ道を歩かされ、両手を使えずに三度転倒し、ひざと顔に大径我を負ったことの現われであり、両足に見られる皮膚のはく離と付着した泥は男性が刑場まで裸足で歩かされたことを示しています。

 

興味深いことに解剖学の権威者でありLA病院の副検死官である法医学者のロバート・バックリン博士による聖骸布鑑定公式報告書はこう分析します。

 

「この男性は身長が一八〇・三四センチ、体重は約八〇キロのコーカソイドの男性。……この受刑者は二人の刑務官によって、左右両側からむち打たれている。革紐の角度が示しているように、人は他よりも背が高い。両肩は腫れて皮膚がはくりしているが、これは死ぬ数時間前に、この人が荒く重たいものを肩に引きずったことを示している。右わき腹では、何か形の長く細い刃物が上向きに突き込まれて横隔膜を刺し、肺から胸腔、心臓へとつらぬかれている。これは死後の出来事である。なぜならば分離した赤血玉と無色透明な血しょうが損傷部から流出している。のちに遺体が横たえられ布の上に置かれてから、血はわき腹の傷口からしたたり落ち、背の腰ぞいにたまった(図10参照・黒く濃い部分がヤリで右わき腹から流出した血痕)。両足の骨には骨折した証拠は見られない。一方のひざには転倒でできたと思われるはくりが認められる。最後に、一本のくいが両足を貫通し、二つの傷口から布へと血がしたたり落ちていた(図11参照・黒く濃い部分が足の傷ロからの血痕)。むち打たれた男が十字架にかけられ、はりつけ刑で典型的な心機能不全で死んだことは明らかである」

 

 聖骸布がこの受刑者を葬ったあと、数日以内に何らかの理由で再び遺体からはがされた結果として、死者の腐敗と共に始まる鑑定不可能なほどまでのひどい損傷をまぬがれ、これらの血痕を見事に今日まで残すこととなりましたが、これが間違いなくイエスさまのものならば、聖骸布使用後の数日以内の不要性もまたその復活を暗示していると言えます。

 

さらにこの聖骸布は剌しゅうもない安物の布ではなく立派な模様の刺しゅうが刻まれているこのことから受刑者は通常の十字架で処刑されたつまらない犯罪人ではなく、死後にもあわれみを受けられるほどの愛された人であり、ある程度の金持ちから手厚く埋葬されたことがうかがえます。

 

確かにイエスさまは罪人の一人に数えられたけれど、死後には金持ちの議員ヨセフによって、最上の墓地に埋葬されたと聖書は証言します……。

 

はたして聖骸布が本物か否かは意見の分かれるところですが、イエスさまがすでに成就された十字架の死に至るまでの命がけの勇気ある献身は誰も疑う余地のない現実です。